
この本は、自分にデザインというものを教えてくれた、思い出深い一冊です。今あるものをリデザインする、つまりデザインをし直すという企画で行われた展覧会を一冊の本にまとめたものです。
例えば最初に出てくるトイレットペーパー。紙管を使うことで有名な建築家、坂茂がこの課題に挑み提案したのは、芯が四角いトイレットペーパー。普通は丸い芯のものを四角にするだけで何が変わるのか?
まず紙を取り出すときにスムーズにいきません。カタカタ音が鳴って、すべりも悪い。そうなると紙が必要以上に出にくくなるから、紙の節約にも繋がります。
また、芯が四角いと自然と紙も四角く巻かれます。そのため、梱包時にトイレットペーパーを詰めていく際、無駄な隙間ができません。輸送時の無駄をなくし、効率を良くすることができるので、物流時のコスト削減にも繋がります。
このちょっとしたリデザインのおかげで、環境への配慮とコスト削減の2つの課題を解決できるという提案に、当時僕はちょっとした衝撃を覚えました。本来のデザインって、こういうものなのか。一流の建築家やデザイナー、アートディレクターは日々こういうことを考えているのか。自分にはこういった思考が全然出来ていない、もっとしっかりと勉強して、目の前の課題に真剣に深く考えないといけないなと思ったのでした。
以来、アートディレクターが書いた本を貪るように読んだり、働きながら通信制の芸大でデザインを学んだりもしました。もう10年以上も前の話です。あれから少しは進歩しているだろうかと、時々自分の現在地を確認したりします。僕が普段働く映像の世界(特にTV関係)では、デザインの世界とはまた微妙に考え方が違ったりするのですが、それでもより深く考えようとすることは、自分の仕事にも活きているんじゃないかなと感じています。